タイトル: Painkiller Hell & Damnation
開発元: The Farm 51
パブリッシャー: Prime Matter
リリース日: 2012年11月1日
シリーズ再起動1作目かつ最終作
シリーズ第一作目がPainkiller、現在はBlack Edition(以下BE)として販売されている。このシリーズは権利関係や開発会社がいろいろ変わったり譲渡されたり買い取られたりと忙しく、どこのゲームという風にひとくちで語れないほどになっている。開発も離脱したりMODを製品化したり、数人で開発したのでもう触れないと言ったりグチャグチャである。
そのシリーズがまたリブートするというので、開発のPeople Can FlyとFarm 51作品をあるだけ触っているというところ。ちなみにリブート作品ではまたパブリッシャと開発が変わる。もういっそのこと別ブランドとして作り直せよと思うし、1作目の名前そのままにするほどフランチャイズ人気はあったのか?と思う。こうなると本当に同じシリーズなのかと言いたくなるが、このシリーズ自体の流れ(先述)を考えると全く問題はなかった。それでもあれは…見なかったことにしよう。

話をこの作品に戻すと、もともとのPainkiller~Recurring Evilまでの5作品で採用していたPain engineではなく、Unreal Engine 3でこれまでの作品のステージをリメイクするというもの。8年以上同じエンジンで使いまわしし続けたという姿勢には驚くが、さらに同じデザインから利益を絞り出そうとする姿勢を崩さないあたり、ある意味で漢気を感じさせる。いろいろと権利がゴチャついたが、最終的には元々の開発であるFarm 51が担当するあたり、原点回帰という表現がふさわしいかもしれない。
単品では物足りない
要するに延命プロジェクトなので、細かく区切ったDLC商法である。それぞれが安いのであまり気にはならないというか、現在では8割9割セールをするので、価格対満足度というかコスパは悪くない。ただ、それにしてもリメイクのコンセプトがいまいちつかめない。

あってないようなシナリオだが、BEをクリアした後のストーリー扱いになる。「彼女に会わせるといったな、あれは嘘だ。もう一回行ってこい(意訳)」という投げやりなストーリー。再訪という話にしたのはマップの使いまわしに説得力を持たせているが、せっかくエンジンを新しくしたのだから、それに適したマップなどをチョイスすればいいのにと思う。すべてのチャプターの最後はボス戦だけのアリーナマップで、さらにチャプターが5から4に減って、Battle Out of Hellの10マップ分減っていると考えると、残っている要素のほうが少ない。それでもプレイ時間がけっこうかかるとかやりごたえがあるとかならまだしも、元々のマップとしてもあまり難しいほうではない。Colosseumがゲーム中で長め・敵多めのマップだが、このシリーズにおいてはリプレイ性というか、マップごとのタロットカード解除などの要素に関わるので、あまり長いものばかりではダメというのもある。それにしてもコンテンツ全体でReシリーズ1本にも満たないのはどうかと思う。

DLCも5つ出ているが4つは既存マップ3つのコンバート、DLC5はジャンルが変わるのでノーカウント。ただどんどんコンバートしてきてほしい!という話にはならないというか、Resurrectionのマップは妙に長い上に変なとこで引っかかるバグとか地面が消えたりするバグに遭遇したりする。Recurring Evilのマップは単に出来が悪いし音楽もいまいち。Redemptionのマップは敵を倒しまくる爽快感はあっても胸焼けがするので、全体としては来てほしくないマップのほうが多いのだが。
そういう事情を知っているシリーズユーザーにとっては簡単すぎるし、知っているマップだし、新鮮味は全くない。リメイクだから当たり前とはいえ、代わり映えが無さすぎる。新規はコンテンツの少なさにびっくりするだろう。どうせなら今までのタロットカードを使ってドンパチできる追加マップの一つや二つくらいは欲しかったなあと。
出来自体は最終結果「普通」「シンプル」
短い・物足りないはあってもベースのゲームの出来がいいというかシンプルなゲームなので、あまり不満は感じられない作り。逆に言うとここすらダメだったのがReシリーズ作品。あえて文句を言うとしたら、1作目から続く敵を倒す→数秒待つ→ソウルが出現というテンポの悪さ。ソウルキャッチャーという武器で遠くのものを吸い寄せられるようになったのは進歩だが、正直そういう問題じゃない気もする。シナリオをガッツリ変えたのであれば、ソウルキャッチャーで倒したら敵のソウルを取り込めるが通常武器では不可能みたいな感じにすればよかったのでは?と思わずにいられない。この武器自体は強くて特殊で、ムービーにも何度も登場する今作品を象徴する武器だが、ソウルを吸収しない・敵を味方につける使い方をしないのであれば本当に単なる強い武器でしかない。これをソウルシステムの軸に据えることは突飛な発想ではないはず。

現実には武器が1種類増えただけという形であり、その分割を食ったのがpain/killerの必要性の部分になる。これにより近接攻撃や弾の節約、トリックジャンプなどのかつてあった要素をさらに陰の薄いものに変えてしまった。こうした点がただ撃ち合うだけの「古臭い」「オールドスクール」という印象にさせ、代わり映えの無さに拍車をかけた結果に。
リマスター・DLC対応の意義

純粋にHDリマスターという点で見れば多言語対応・最新テクノロジー対応・ロード時間の改善などたくさんのプラス面があるので、これで全ステージそのまま遊べたらなという残念感がある。DLCでは何をとち狂ったのかトップダウンシューターのステージとかいうチャレンジ精神を見せた。そういうのこそスタンドアロンで作れよ。DLCも4つで12マップなので、ボリューム倍増というにも物足りない数字。レビューで「本編に入れとけよこんなの」扱いを受けるのもやむなし。

悪い面を追いかけてしまったが、DLCでステージ拡張というかたちも一定のメリットがあって、このシリーズの肝になっているタロットカードが追加された状態で他のステージが遊べる。スタンドアロンDLCのような位置付けのOverdose~ReシリーズはBEのカードが使えないうえに一からスタート。ちょっと集まったらゲームクリアという状況だったので、前作の遺産・努力が全く活かせなかった。これだと本編の短いステージで手に入る弾薬2倍だの遠くのソウルを獲得できるだののカードを持ってDLC1~4のマップに挑戦できるし、DLC側の強力なカードを持って本編を遊べる。そうなると難易度の高いマップや敵がガンガン出てくるところをバシバシ倒せるという調整も可能になるはず。これなら何回か遊んでみたいとかいうリプレイ性を生み出せたはず、というのを示すチャンスだった。残念ながらできてないけど。
こういうカードを取りたい取らせたい使わせたいなら、もっと魅力的なステージを作るか、そういう難易度に設定されているマップやModifierを用意すればいいのに、頑なにやってこなかった。同じマップの高難易度でしか使えないとなってもつまらないかもしれないが、何かは欲しい。。特に周回したくなるような、いつ遊んでもここは面白いなあみたいなマップが1つでも収録されるだけで本当にガラリと評価は変わると思う。
大事な日本語訳の話
このゲームを語る上で日本語は避けて通れない。
プレイ中に日本語音声が出ることはないが、カットシーンで脱力する。一時期から字幕側に修正が入ったらしく、字幕と音声のタイミング・内容がかつて話題になった動画と現在では異なっているようだ。直すべきところはそことその時じゃない。正直な感想としては、ダニエルの声と演技については割と普通だと思えるが、一部テンションのおかしいところはある。イブはまあ…ひどいね。死神はギャグ要員としか思えないが、狙ってこの味わいは出せるものじゃない。奇跡のような脱力感を生み出した。
あと字幕に現れる縦長の四角[]はUnreal Engineゲーでおなじみの文字化け。BorderlandsとかKilling Floorとかの日本語化で顕著に現れていたやつなので、これは紛れもなくUnrealEngineで作られたリメイクだと安心させてくれる。まるで失敗した日本語MODだが、公式がこれをチェックせずに出したらダメだと思う。
ちなみに各国語翻訳のクレジットでは、英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・スペイン語とブラジル版まではロールされていたが、日本語・ポーランド語・ロシア語はストアにおいてフル音声まであると書いてあるのに担当企業・担当者のクレジットはなかった。メニューや字幕の翻訳くらいならそこまで手はかからないだろうに、なぜそこでフル音声吹き替えを選んでロクなスタッフをつけないという判断に至ったのか。そして低予算でコンバートしてるぜ!なプロジェクトでなぜマルチ言語にしようと思ったのか。本当にコンセプトがよくわからない。字幕というかメニューだけならマルチ言語はすそ野を広げるという意味ではありだろうが、英語スペイン語くらいで十分なんじゃないか。

名前も出せない人の作業だから仕方ないが、オプションの1画面ですらなにこれである。左右を撃つんじゃなくて左右移動、武器発射も逆の気がする、マウスの感度設定内のマウスの感度チェックボックスの意味がわからない、セーブの設定じゃなくて設定の保存かなんかにしてくれ。音声がへっぽこな分には笑えるが、タロット解除のための条件とかこういう設定でおかしな翻訳をされるとプレイに支障が出る。「○○をしろ」が「(すべての)○○をしろ」なのがいくつかあったり、ちゃんと全てしろと書いてあったりするものが混在していて、正しい条件は翻訳版では開示されないので類推するしかない。なのでタロット獲得というモチベーションは低くなる。ここについては明確に問題点。
まぎれもなくPainkillerの系譜
シンプルなゲーム性・よくわからないタロットカード・解除条件の複雑さ、さらには低予算の延命プロジェクト丸出しな使いまわし・分割商法など、あらゆる要素がいつも通り。プレイ感も何もかも一緒なので、ゲーム自体はお勧めできる。難しいのが苦手だけどとりあえずスピード感のあるシューターに慣れてみたいとか、そういう人に古いテクノロジーのPainkillerBEをお勧めするよりはこちらのほうがふさわしいのは間違いない。いろんな意味でオールドスクールなのでかえって新鮮味があるかも?
ただ個人的に一番残念だったのが、好きな音楽が一曲も聞こえてこなかったこと。音楽の権利もあっち行ったりしてるんだろうけれども、今作オリジナルと思しき戦闘曲がいまいち乗り切れなかった。「C2L2_Prison_&_C5L1_City_On_Water_Fight」とか「C9L04_Haunted_City_Fight_Music」もしくはそのアレンジ版とか、スラッシュメタルっぽい感じの各種も入ってなさそう。ついでに言うとエンジンの変更で音楽ファイルがダイレクトにフォルダに入ってないので、音楽だけ楽しむことができないのは地味に痛い。

サントラはDigital Extrasとかいうコレクターズエディションに入っているが、正直買いたくなるほどでもない。どうもこの作品はDLCが弱い。買わせたくなるものを売っていないというか需要を外している。本編だけだと薄いのにDLCは魅力がないとなっては、このリブートがすぐに終わった理由が察せてしまう。
総合評価として、個人的な位置づけとしてはBEがトップ(名作~良作くらい)で次にRedemption(開き直って大量の敵を倒す楽しさだけはある)、その次くらいにこれといった感じの順位。良作でもないけど酷くはない、初代の雰囲気を再現できてはいるが短すぎるし簡単すぎるという点で加点無しの50点台半ばくらいという感じ。あとはNecroVisioNとかよりは確実に上という感じに確定。やはりやるべきことが明確で、それを達成するために求められるものがはっきりしているゲームは強い。
一応プレイ動画もアップしてはいるが、全部で4時間もかかってない上に山場すら無しの平坦なプレイ、カットシーン集もあるけど未プレイの人が見ても面白いのかは知らない。そんな感じ。
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