[Review]Chernobylite

タイトル: Chernobylite Complete Edition
開発元: The Farm 51
パブリッシャー: The Farm 51
シリーズ: Chernobylite
リリース日: 2021年7月28日

SFサバイバルホラーRPGゲーム

元People can flyメンバーが作ったFarm 51は、NecrovisioNやPainkiller Hell & Damnationのようなホラーテイストを持ったFPSを主に製作していた。そのあとは評判があまり芳しくないアドベンチャーのDeadfall Adventures、それなりに好評なホラーゲームのGET EVENをリリースしている。

この作品はチェルノブイリの地図を3Dスキャンしてマップを製作したり、登場人物が多言語でフルボイスなど雰囲気づくりへのこだわり度合いが半端じゃない「RPG」である。念押ししたがRPGである。ジャンル的にもプレイフィール的にもFPSと呼ぶ代物ではない。さらに言うとS.T.A.L.K.E.R.などと比較されがちだが、こちらは「オープンワールド」ではない。詳しい話は後述する。

導入シナリオとしては、30年前にチェルノブイリ事故が起こったとき、行方不明になってしまった婚約者タチヤナ・アマリエヴァ(ターニャ)を、物理学者イーゴル・ヒミヌク教授が探して助けに行くことになるといったもの。オープニングで発電所にチェルノブライトという物質を取りに行った際に、仲間のアントンが黒衣のストーカーと呼ばれる存在に襲われ命を落としたが、チェルノブライトを使ったワームホール発生装置を使用し、逃げ延びることができた。傷ついたオリヴィエとイーゴルの二人が、禁止区域内の調査やアイテム集め、ターニャの情報などを集めながら、「多分発電所にいる」ターニャを助けに行くための計画を練り、実行するのがゲーム全体の流れとなる。

ゲームとして取捨選択したシステム

複雑すぎない戦闘

基本的にはステルステイクダウンによる撃破か、銃撃による攻撃で倒すかの二択である。近接武器などというものは存在しない。装備品やパークでステルス能力を高めてスイと忍び寄り、トラップを仕掛けるなどの変化球もある。イーゴルさんは科学者なので、基本的に戦闘は得意とせず、攻撃を受けたり敵を倒したりすると精神が不安定になってしまったりするが、永続ではなく薬などで治るのでフレーバー的な要素である。戦闘難易度としてはきっちり弾を先制で当てたり、見つからずに行動出来たら被害なく終えられるが、近距離で囲まれた状態で発見などになるとかなりの被害を被る。レーザーサイトがこちらに合っていればおそらく必中クラスの攻撃なので、とにかく遮蔽物に隠れるか、左右に振って捕捉されないように立ち回る必要がある。

こちらの攻撃も、基本的に銃弾は真ん中に飛んでいく。精度やばらつきの概念が無く、反動や自分のエイミング側に問題がなければ敵に当てることは容易だろう。敵AIが割とまともに戦ってくるので、複数人いると結構てこずることもあるといえばある。裏に回ったり隠れたり、違うルートを通ってきたりするので、こちらが強くなってきても気が抜けない。強いアーマーなどで「あまり気にならない程度」にはできるが、完璧に無力化のようなプレイは出来ない。

独特な点としては、イーゴルの設定上銃撃が下手だろうということなのか、サイトを覗いた状態(ADS)でないと発砲ができないということ。なので、倍率の高いサイトをつけた改造AK47などを所持しているときは、近距離用のリボルバーやショットガンを持つなどの対応が必要になる。リボルバーの威力は高く、初期から威力アップのパークを取得できるので、敵を視認しにくい距離でなければかなり強い武器になる。でも私はこういう遠距離からスコープでAK47を撃って押し通しました。

割り切ったクラフト・拠点アップグレード

きっちり分けたら膨大な量になりそうなクラフト素材だが、「こういう類のモノ」でひとまとめしているため、集めやすくて助かるのだが、クラフトシーンが多少シュールになる。

発電機を作るのに「キノコ・機械部品・可燃部品」というシンプルな用語が飛び交う。これは実際に採集しているときはそこまで違和感がないといえばないので、ゲーム的に割り切ったなあと納得はした。

説得力を持たせているのは「そのアイテムが落ちている場所」の1点。例えば木や草の近くには可燃部品が落ちており、おそらく薪などの燃料になるものだと思われる。ほかにも可燃部品がよく落ちている場所が自動車の近くなどで、こちらはガソリンなどだろうと推測が付く。これらを一緒くたにすることで煩わしい燃料問題を減らしているのだ。ほかにも機械部品や電気部品などが主に落ちているものは工業製品近くなどで、ネジやモーター、電気スイッチや電線などの「ありそうなものをありそうな場所に」という生成になっているので、探しやすいし使いやすいし違和感もそこまでない。キノコと薬草はその辺に生えているのでアレだが、モンスターを倒したときに多量に手に入ることから「この土壌で獲れるちょっぴり得体のしれないもの」程度の認識でいいだろう。分けようと思えばこのクラフトの段階も数ステップにできるだろうが、煩わしさが先に来るし面倒だろうから、シンプルにまとめたのはアイテム管理の面でも英断と言えると思う。

割り切ったがゆえに

まずアイテム配置の問題についてだが、その場所に落ちていそうなものが落ちているという点がダイレクトに影響してくる。エリアによっては住宅などが少なく、それによりレーションが手に入りにくいという問題が生じる。サバイバル難易度ミディアムにおいては、仲間の仕事成功率も高く、余るほど手に入ってしまうのだが、難易度を上げるとたまにカツカツになってしまう。最高難易度だと分配できないレベルに。

おそらく真ん中であろうミディアムだと素材もたくさん手に入るし、拠点がすぐにいい状態になってしまう。あまり不便すぎても問題だが、スムーズすぎるのも存在意義を問われてしまうことになる。よく使う武器の弾薬や、回復アイテムを量産しようとか言った場合に限り、一部の素材が足りなくなるかな程度なので、サバイバル感は薄い。逆に難易度を上げるとその辺にたくさん車があるのにパーツが全く手に入らないなどの融通の利かない状況になる。

意外とちゃんとしたホラー

基本的には雰囲気がダークで何かいそうな雰囲気の建物を探索するのがメインなので、暗闇に対する恐怖感が生まれる。環境音も風の音からカラスの鳴き声、響き渡る何かの笑い声・泣き声など、苦手な人なら勘弁してくださいと言いたくなるような雰囲気である。

こういう人形が光っていたり、振り返ったら誰かいたみたいなダイレクトな演出もたまにある。陳腐なジャンプスケアを多用しているわけではないので、演出としてはバリエーションに富んでいると思う。いかにもなアイテムを取るとビックリみたいなものから、いきなりプロジェクターが点くとかの怪現象、全体としては予測できるものが多いのでショックは大きくないものの、数回はマジでびっくりした。

あとはエリアの探索が長引くと天気が悪くなってきて、雷鳴や嵐とともに黒衣のストーカーが襲ってくる演出もある。ミディアム難易度だと探索にそこまで時間をかけなくてもアイテムが集まるし、撃退も難しくないので、あまり出会うこともないが、これも一種のパニックホラー演出。

お勧めは難易度低め・シナリオ重視

難易度調整は極端

先述したようにミディアム難易度では特に困ることもなく、潤沢にある物資を使って拠点をしっかりアップグレードして、仲間の不満もこちらのコンディションも万全で探索に行ける。だが、難易度を一つ二つ上げると途端に何もできないのでは?というほど厳しくなる。なので特にこだわりがない人はミディアムか、さらに下げてプレイするくらいで十分。難易度に関する実績はないので高難易度は本当におまけ。クリア後にさらに高い難易度にもできるが、やる意味が感じられない。

管理難易度をハードの上、発狂難易度で始めるとギリギリくらいで済むが、クリア後のおまけ「狂気の門」難易度まで上げると、はなっから基地がボロクソ。そもそもこの人たちは「もともとロシア出身かゾーン内で暮らしていて、目的があると誘われたのでイーゴルの基地にやってきた軍人や手練れ」なのだが、ベッドがないだの空気が悪いだのなんだのと文句を言って不満を溜めて、溜まり切ったら離脱してしまう。この基地やーやーなのじゃないんだよ。幸いミディアム難易度程度では、よほど変な基地づくりや選択肢で蔑ろにし続けなければ関係は悪化しないので、人によっては建築自体もフレーバー要素未満になる。

サバイバル難易度を下げればおそらく物資がたくさん手に入るので、管理難易度を上げても大丈夫だろうと思うのだが、本末転倒も良いところなので、難易度を弄るのは特に推奨しない。ミディアムで十分。探索の時間も手間もかかってしまうので、没入感が薄れる可能性もあるし。

迫真のロシア語音声

音声設定だけはロシア語をお勧めする。登場キャラ全員がやたらめったら気合いの入ったセリフ回しをしているのが伝わる。それに日本語字幕はちゃんとしており、科学用語から暴言、局地的なスラング的な言い回しまで使いこなす。

「原語ではなんて言ってるんだろう」と気になるくらいに丁寧に作られているのには正直驚く。それだけに、「AとBのどちらを選択してどちらの顔を立てるか」のたびに、選ばれなかった方から長文で罵られるのが結構堪える。拠点に戻った際に2回目の罵りもあったりするので、全体としてかなりの分量のロシア語での罵倒を聞くはめになる。そもそも選択肢がなんでこの2択なの?折衷案はないんですか?なので真剣に悩んだ結果そうなるというのは結構心に来る。

独特かつ複雑な選択肢ツリー体系

このゲームにおいては、NAR兵以外にやられて死ぬ(兵士の場合は投獄)と精神世界的なところに飛ばされてその日をやり直しになる。この際、過去の選択で「あの時はあっちを選んだけど別の選択だったらどうなったのか」という選択をやり直して、文字通り過去を変えることができる。これにより、選択肢で誰かを蔑ろにしすぎて離脱したり、加入イベントで悪いほうを選んだといったなどの、言ってしまえばミスをしてはいもう一周ということになりかねない問題を無かったことにできる。

ここで問題になるのは、「片方を選んで入手した手掛かりやグレードアップは手元に残る」ので、完全な歴史修正ではない」ということ。具体的にはネタバレになる可能性もあるのだが、ターニャの手掛かりを求めて奔走しているイーゴルにとって、手掛かりを入手する選択肢はぜひとも選びたい。だがそれを選ぶ場合悠長にハッキングしていると、こちらの動きがバレてしまうぞと怒り、好感度が下がるキャラがいる。好感度を下げすぎないようにとそちらを選ぶと手掛かりが手に入らない。なので選択肢としては間違っていなくても1回はそちらを選ばないと、手掛かりを集めて過去のシミュレートを行うという作戦決行の1ステップが踏めないことになってしまう。

一番困るのがレーダーを破壊するかPDAのアップグレードを迫られるクエスト。そもそもなんで2択なの?なのだが、選択肢の際に表示されるメッセージもレーダー破壊を推しているので、おそらくそちらを選ばせようとしているのだが、アップグレードを選ぶと機能が相当にパワーアップする。過去を変えるというのだから、機能向上はなかったことになる…と思いきや先述のとおり維持されるので、こっちが正解(メンバー維持のため)だなと思っていると感知範囲の狭いPDAを使い続けることになってしまう。こういう部分の説明が無く、自分は2周プレイしたのだが、「そういえばこれ不便だよな」「そういえば証拠全然集まってねえな」と思ったところでようやく気が付いた。低難易度であればスキャン範囲が狭かろうが気にしなくてもいいのだが、アイテム自体が少ない難易度にすると不便さが際立つ。そうでもないと気が付かないというのが落とし穴である。

1回目のプレイではいろいろな展開についていけず、あとから明かされる事実に「あああの時こういう選択肢を取らなければならなかったのか」と気づかされるのだが、知らないとノーヒントなので、最良の方法っぽくてもいくつかは不正解を選んでしまう。それでも仲間の友好度はベストとは言えないまでも全体的に良好、証拠を集めてのシミュレーションなどは完遂できるくらいにはまとめられる。そうなればなんとかベストエンドに進むくらいは遊べるので問題はないと思う。逆に失敗させ続けた場合のエンディングはちょっと気になるくらいに。自分のラスト近辺のプレイを見返すと大体合っててむしろ誇らしささえある。もちろんシナリオ上重要な部分を全部1回目で見るのはおそらく不可能だが、核心部分は明らかになるので遊びつくすという意味では問題ない。

あとはシナリオ上の話ではなくなるが、マップ上のミニイベントで脱走兵を助けたり、敵のNAR兵士を助けるなど、メインシナリオには関係のないものがちらほらある。助けるだけではメリットはないが、敵兵にやられてダウンした場合監獄マップに飛ばされて、アイテムを見つけて脱出というプロセスを経て復活できるというシステムになっている。その際に「あの時の兵士ですアイテムを全部持ってきたので逃げてください」と手渡してくれたりする(1回だけ?)。もちろん助けない選択もあるし、即逃げせずアイテムを漁って帰るのもメリットがあるうえに、ここに手掛かりが落ちていたりもする。それで終わり、のイベントが少ないというのもなかなかに凝った作りだと言える。ただ、一つ感じられることとしてはやられることにメリットを作られると、ノーミスで進めたい人にとっては苦痛もしくは到達できない領域なので、そこは仮に念入りに説明されても厳しいところではある。

シナリオが刺さるなら

基本的には撃ち合いにならないゲームなので戦闘は薄味。ステルスも難易度を上げると反応が早すぎる上に、ステルステイクダウンのモーションが長すぎて、単独でない場合大抵他の敵に見つかってボコられる。クラフトやサバイバルは難易度が普通なら潤沢すぎるし、上げると「ゲーム的に」難易度を上げてこられるのでやり甲斐はない。というところなので、全体的には超薄味。その上にドカッとロシア語音声とシナリオ、ちゃんとした日本語訳が乗っかってきている。ここが気に入らないなら確実に低評価になるし、気に入ったならゲーム要素が苦にならない程度にカジュアルなので、ある意味障壁が少なく楽しみやすいと思う。

価格も現在では8割引きになったり、Fanaticalなどのバンドルで1本200円くらいのラインに入ったり、かなりダイナミックな割引をしている。2アーリーアクセスの評判が悪いので利益を手っ取り早く出そうとしているのかは知らないが、この作品については出来がいいものが安く手に入るので恩恵は大きい。というかなぜ翻訳がこの出来から急に悪くなるのか、正直信じがたいのだが、Painkiller HDを見るに元々そういう会社だったわ。

最初にも述べたが「ミッション選択型のRPGであり、オープンワールドFPSではない」ことに留意しつつ、適度にホラーの混ざったアドベンチャーゲームを遊びたいと思う人にはお勧めできる。ちゃんとロシア語音声を選ぶことと、適宜過去の改変をしよう、の2点を忘れないように。あとチェックポイントが変なタイミングしかないので、1日が始まったときが止め時。

コメント

タイトルとURLをコピーしました